東京地方裁判所 昭和43年(ワ)9357号 判決
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〔判決理由〕二、・(本件登録第五八〇二二六号の実用新案権の)登録請求の範囲の記載からして、本件考案は、次の構成要件からなるトイビルディングブロックであると解される。
(イ)、底壁と四個の側壁を有し、一面で開口する側壁平行の中空体からなること
(ロ)、底壁から垂直方に突出して二列に並んだ主突起を、その二組の隣接突起対の各々が正方形を郭成するように設けること
(ハ)、ブロックの凹窩内に、一個の上記正方形の中心線と同軸に配列された少くとも一個の副突起を含むこと
(ニ)、この副突起を上記底壁に垂直に幾何学的に組込むときに、副突起の周面が正方形を郭成する四個の主突起の周面と接触するように構成されていること
三、そこで、右各要件がいかなる意味をもつものであるかを、本件実用新案公報により、本件考案の図面および説明書について検討する。
(一) まず、右説明書の「実用新案の説明」の項は、その冒頭において、本件考案の対象について記載し、次に公知例として本件考案の前記(イ)(ロ)の構造を有し副突起のないブロック、および、同(イ)(ロ)の構造を有し、主突起と同軸をなす副突起が設けられ、主突起には嵌合のための凹部が設けられているブロックを挙げ、ついで、「本考案による上記型式のブロックは前記従来のものが有する両方の特色をあわせ有している。従来のもののごとく主突起と副突起とを単に並置したのみでは、広範囲の組み合せにて隣接せるブロック同志を相互に結合することは不可能である。広範囲の組合せ結合をなすためには、主突起と副突起との相対寸法ならびに位置は特殊な関係で相関係されねばならない」として、本件考案の目的を明らかにした上、「従つて、本考案においては主突起Pの位置と寸法とに対する副突起の位置と寸法とは次のようにされている。即ち、組立てられる一対のブロックAおよびBにおいて、一ブロックAの少くとも一個の主突起Pの側面は隣接せるブロックBの少なくとも一個の副突起Sの側面に当てて、締着されるようになつている」と記載している。
この記載の内容からして、本件考案の要旨は、それ自体は公知の主突起と副突起とが設けられた中空体よりなるブロックにおいて、主突起の位置と寸法に対し特殊な関係で副突起の位置と寸法とを規定した点にあることが明らかである。
このことから本件考案の各構成要件をみると、要件(イ)は、主副両突起の設けられる中空体の構造を、同(ロ)は、主突起の位置を各示すものと理解される。そして、実用新案の説明の項において図面を説明している「各々の副突起Sは二組の一対の隣接せる突起Pの4本の軸線で形成される短形の中心と同軸に配置されている。さらにまた、上記の相対的寸法は、中空ブロックの底面内の各突起の横断面が上記平面内の上記主突起Pの4個の横断面に接触するようにされている」との記載からすると、要件(ハ)は、主突起の位置に対する関係で副突起の位置を規定し同(ニ)は、主突起と副突起の相対的寸法を規定するものと解される。
(二) (1)、原告は、要件(ハ)につき、「同軸に配列された少くとも一個の副突起を含み」とは、四個の主突起が郭成する一個の正方形の中心線と同軸に配列される副突起が一個である場合と、多数の副突起が群として中心を有し、この中心と正方形の中心線が重なる場合を含む意味であり、この解釈は、右文言の表現から明白であると主張する。
しかしながら、右(ハ)の要件に該当する登録請求の範囲の記載「上記ブロックの凹窩内に1個の上記正方形の中心線と同軸に配列された少くとも1個の突起Sを含み」なる文言は、二様の意味に解釈することができる文言であつて、「1個の上記正方形の中心線と同軸に配列された」という句を「少くとも1個」という句と並んでともに直接「突起S」を形容するものと解すること、すなわち、前記記載を、「上記ブロックの凹窩内に、少くとも一個の突起Sを含み、この各々の突起Sが一個の上記正方形の中心線と同軸に配列されたもの」という意味に読むことも可能であつて、必ずしも一義的に原告主張のとおり解釈されなければならないものではない。
(2)、かえつて、本件考案の図面および説明書によれば、図面に図示されている四個の主突起が郭成する一個の正方形の中心線と同軸に配列された副突起は、すべて単一の副突起であり、説明書の実用新案の説明の項の図面を説明する前記引用の記載(公報二頁左欄二四行目から二六行目まで)も、単一の副突起各々が右の位置関係にあることを述べていること、同項に掲げる数式「」も単一の副突起を基準にしていること、その他同項において副突起に言及する記載中に数個の副突起を群として把握する趣旨を示す表現はまつたく存在しないことが明らかである。
このように、本件考案の図面および説明書の実用新案の説明の項において、群として副突起という構造にまつたくふれられておらず、むしろ主突起の位置に対する副突起の位置の関係が単一の副突起の位置の関係が単一の副突起を基準にして説明されていることからすれば、登録請求の範囲の記載もこの趣旨において理解するのが自然であり、したがつて、要件(ハ)は、主突起の位置に対する関係で単一の副突起の位置を規定するもの、すなわち、上記正方形の中心線と同軸に配列される副突起は一個であり、この副突起が凹窩内に一個以上含まれる構造を示すものと認定するのが相当である。
(3)、原告は、本件考案の出願の経過、とくに原特許出願の願書に添付された明細書および図面の第七図および第八図の例からして、出願の当初から出願者は、前記原告の主張どおり考えていたことが明らかであると主張する。
本件考案が、原告主張の出願経過により実用新案登録されるに至つたことは当事者間に争いがない。この事実と<書証>によれば、原特許出願の明細書には、その図面の路解の項において、「第7図は第二突起が管状をなし且実質上十字形の横断面を有する同様なブロックの平面図」とあり、ここで「同様な」とは、右記載に先立つ第六図の説明の記載に照らし、「2個の第二突起を配備された」の意であることが明らかである。
第八図については、「第8図は互いに隣接した各一対の第一突起の間の空所に第二突起を夫々配列されたブロックの他の具体例の平面図」と記載されている。これと、発明の詳細なる説明の項の「第7図及び第8図に於て、副突起Sy及びSzは隣接せる要素の主突起の側面に対し非常に有効な締着効果を提供する様に弾力を増加するためのスリットを設けられ……」との記載を合わせ読み、図面を参照すれば、第七図、第八図においてSy、Szとして示されているのは、それぞれスリットが設けられた単一の副突起であることが明らかであり、これを原告主張のように数個の副突起からなる一つの副突起群として把握することはできないといわなければならない。
この点と同項の「第1図乃至第7図及び第9図並びに第10図の具体例に於ては、各々の副突起Sは2組の一対の隣接せる突起Pの4本の軸線で形成される矩形の中心と同軸に記載されている」との記載からすれば、出願者は、上記矩形の中心との同軸に配置されるのは一個の副突起であると理解していたものと認められる。
さらに、右記載から第八図の具体側を除外していることは、副突起がたがいに隣接した各一対の主突起の間の空所に配列されている構成を、右の矩形の中心と同軸配置の副突起という構成に属さないと出願者が考えていたこと、換言すれば、原告主張とは逆に、出願者は群としての副突起という考えを有していなかつたことを示すものである。同明細書中他に原告主張のように理解すべき理由となる記載は見当らない。
(4)、右出願の経過および<書証>によると、本件実用新案登録出願と同じく原特許出願から出願変更された原告主張の(B)出願の説明書の訂正後の登録請求の範囲には、「上記ブロックの凹窩内に一個の上記正方形の中心線と同軸に配列された少なくとも一個の十字形断面の突起(Sx)を含み」との記載があり、この記載は、本件考案の要件(ハ)に該当する登録請求の範囲の記載と、「突起Sx」と「十字形断面の突起(Sx)」が相違するのみで、他はまつたく同文である。そして、(B)出願にかかる考案において、四個の主突起の郭成する一個の正方形に配置できる副突起は、それが十字形断面の形状を有することからして一個にかぎられることは明白である。したがつて右記載における「一個の上記正方形の中心線と同軸に配列された」という句は、「少くとも一個の」という句とならんでともに直接「十字形断面の突起(Sx)」を形容するものであることが一義的に明らかである。同じ特許出願から出願変更された一つの実用新案登録出願の説明書中の同じ文言は同じ意味を表現していると解するのが相当であり、このことは、本件考案の要件(ハ)を前記(2)で述べたように認定する裏づけとなる。
(三) 要件(ハ)を右認定のように解する以上、要件(ニ)も、主突起の寸法に対する関係で一個の副突起の寸法を規定するもの、すなわち、一個の副突起の周囲が、正方形を郭成する四個の主突起の周面と接触するの意味であると認定される。
四、被告製造のトイビルディングビロックが別紙目録<省略>記載の構造のものであることは、当事者間に争いがない。
五、そこで、被告製品と本件考案を対比する。
(一) 被告製品のブロックの空所内に設けられた一〇個の副突起は、隣接する対の主突起の間に各一個づつ位置するように配置されており、一個のブロックを組込むと、一個の副突起の周面は両側の二個の主突起の周面に接触する。したがつて、被告製品の一〇個の副突起をそれぞれ単一の副突起ととらえるかぎり、被告製品が本件考案の要件(ハ)および(ニ)を具備しないことは、格別の説明を要せず明らかである。
(二) 原告は、副突起とは中空ブロックの凹窩内に突出した突起を意味するものであるから、被告製品の十字形に交叉する壁が結合された各四個の副突起を全体として一個の副突起と考えることができると主張する。
しかしながら、本件考案における副突起とは、ブロックを組立てる際、主突起と協同してブロック同志を結合する作用を有するところの中空ブロックの凹窩内に突出した突起を意味することは、本件考案の図面および説明書の内容からして明らかであり、本件考案においては、このような作用を有する各個単一の副突起につき、その位置と寸法を主突起の位置と寸法に対し要件(ハ)および(ニ)に示されているように規定した点にその要旨があること前述のとおりであるから、この要件と対比されるべき被告製品の副突起も主突起と協同してブロック同志を結合する作用を有する各個単一の副突起であるべきであつて、このような作用を有する各個の副突起がその基部において十字形に交叉する壁に結合されていることは、本件考案と被告製品を対比するに際し無視してさしつかえない構造である。原告の主張は採用に価しない。
(三) 原告はまた、被告製品は本件考案の設計変更ないし均等の域を出るものではないと主張する。
なるほど、本件考案と被告製品は、主突起と副突起の側面接触によりブロック同志を結合する点においては共通する。しかしながら、主突起をその二組の隣接突起対の各々が正方形を郭成するように設けた中空ブロックにおいて、この主突起の側面にあてて副突起の側面が接触するように、主突起の位置と寸法とに対し副突起の位置と寸法を定めるに際し、本件考案の要件(ハ)および(ニ)のように、主突起を郭成する正方形の中心に一個の副突起を配置し、その周面が四個の主突起の周面と接触するようにする構造と、被告製品のように、右正方形の各辺の中点に各一個の副突起を配置し、その周面が両側の二個の主突起の周面に接触するように定めた構造とは、副突起の数、位置、寸法に関し別個の構造とみてさしつかえない差異を有すると考えられる。このことは、前記三、(二)、(3)において述べたとおり、原特許出願の明細書において、被告製品とその副突起の配置の仕方において同一の第八図の構造のブロックにつき、出願者がこれを主突起の郭成する正方形の中心と同軸配置の副突起を設けたものとみていないこと、および、本件考案の出願経過から明らかなように、原特許出願変更に際し、右第八図の構造のものはいずれの実用新案出願の対象ともされなかつたことからも明白であるといつてよい。したがつて、被告製品をたやすく本件考案の設計変更ないし均等物ということはできない。
(四)、結局、被告製品が本件考案の技術的範囲に属するとの原告主張はいずれも理由がない。
六、よつて、原告の本訴請求は失当であるからこれを棄却……する。(荒木秀一 古川純一 牧野利秋)